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旅のお話
2020.03.15

肱川河畔に佇む、数寄屋建築の傑作「臥龍山荘」で四季を愉しむ。

臥龍淵に佇む稀有な山荘で、
至福のひとときを

肱川随一の景勝地は、風の穏やかな日に新緑や紅葉を、水鏡のように映す。
「臥龍淵」と名付けられた肱川湖畔は、殿様が愛でた景色だ。
その後、木蝋貿易で富を得た河内寅次郎は、10年余りの歳月をかけ、この地に臥龍山荘を築造した。
日本の茶の湯文化を守るために作られた山荘は、
日本の美が宿る数寄屋建築の傑作となった。
数寄屋建築の傑作 臥龍山荘
数寄屋建築の傑作 臥龍山荘
数寄屋建築の傑作 臥龍山荘
川面に浮かぶ小舟と月を模した石垣を歩けば、母屋「臥龍院」の奥に庭園が広がる。目に留まるのは、侘び寂びの奥深さを感じる意匠や遊び心の数々。そして草木と石畳がつくり出す美しき光と影。幾多の季節を重ねてきたこの山荘に足を踏み入れる度に、紡がれてきた歴史に敬意を払うばかりだ。
数寄屋建築の傑作「臥龍山荘」
数寄屋建築は、日本の建築様式の中でも特に風流で繊細な美しさを持つもの。臥龍山荘における河内寅次郎の功績は、わざわざ京都から名大工や茶室建築家を呼び寄せたところに始まる。そして、構想に10年もの歳月を費やし、その情熱を最も注いだのが母屋「臥龍院」だ。材料の精選から着想の秀抜、加えて名工の卓越した技術が相まって、形を成していった。
数寄屋建築の傑作「臥龍山荘」
数寄屋建築の傑作「臥龍山荘」
庭園を歩けば、季節によって移りゆく表情を計算された草木、石積みや石造作のアクセントに魅せられる。庭園から見る臥龍院もまた一興。臥龍山荘は、自然を生かすことを考え抜いた建築でもある。視点を変えるほどに奥深く、こちらの表情も豊かになる。
茶室建築家、千家十職、名工たちが施した、
遊び心あふれる意匠の数々
これほどまで随所にわたって意匠が形になっているのは、大洲には京都のような建築の制約がなかったからだと言われる。侘び寂びの表現や季節をテーマにした装飾、隣の部屋の光を取り入れた造作など、それぞれの“間”に匠たちの湧き上がるアイデアと技が光っている。
霞月の間
霞月の間
「清吹の間」は、水をあしらった欄間彫刻が四季を彩る。春の清流と筏流し、夏の水紋など、水にちなんだ透かし彫りによって、涼しさを演出している。
臥龍山荘
臥龍山荘
「霞月の間」は、丸窓の奥の仏間に蝋燭が灯されると月明かりのように浮かび上がる。違い棚を霞に見たて、月と霞で霞月の間だ。右手の襖はあえて鼠色で薄暮を表現し、引手にはコウモリの細工が。さらに、壁の一部を塗り残して荒れた農家の風情を表現するなど、侘び寂びが見事に散りばめられている。
時間帯や季節によって刻々と移りゆく表情
山荘へと足を踏み入れれば、ふと足の止まる光景が続く。さりげなく、静かな美に見惚れてしまうのだ。時とともに移りゆく光と影、時季によって変わりゆく色彩と香り。五感を使って、密かに心を躍らせよう。
臥龍山荘
臥龍山荘
臥龍山荘
臥龍山荘
臥龍山荘
臥龍山荘
臥龍山荘
臥龍山荘
臥龍山荘
臥龍山荘
臥龍山荘
臥龍淵の崖に建てられ、全体を船に見立てた「不老庵」。崖からせり出した「懸け造り」からは、臥龍淵を眼下に見ることができる。竹を複雑に編み込んだ丸い天井には、中秋の名月が川面に反射して映り込む巧妙な趣向を凝らす。そして晴れた日には、日光が揺らぎながら天井を照らす。ひたすらに風流なその光景を、ただただ時間を忘れて眺めていたい。ここに居るだけで、大洲を心ゆくまで味わうことができる。不老庵ではお茶席の用意も。肱川を借景に楽しみながら、お茶の先生に点てていただくお茶は格別。(※実施時期等要確認)

臥龍山荘の奥行きは、認定案内人とのまち歩きによって深く感じることができる。寅次郎や職人たちの秀抜な着想は、自らの審美眼だけでは拾い切れないほど豊かで見事だ。