食のお話
2020.12.17

川魚のご馳走。

清流肱川が育む、川の幸を堪能する

焼きや造りなど、上質な素材を四季の移ろいとともに味わえば、
嗚呼日本人でよかったと、誰もが舌鼓を打つだろう。
魚の身を香ばしく焼き上げ、麦味噌をあわせてご飯とともにいただく、伝統料理さつま。
こんがりと焼けた身に塩が香ばしく交わる塩焼き。
弾けるような橙色のお刺身、土鍋でふっくらと炊きあがった釜飯。
肱川のせせらぎが聞こえてきそうなご馳走だ。
四国山地の降水量は年間300ミリを超えることもある。豊富な降水量に対して流れる川の全長がさほど長くないことから、水量の多さが際立ち、安定的な水量は高い自浄作用を生む。愛媛県南予地方を広く覆う肱川水系が、この地にもたらす恩恵は計り知れない。上質な川魚の住処となっていることもそのひとつだ。 大洲の川魚は、古く江戸幕府への献上品であったことや、現代にも伝統文化として生き続ける“うかい”にも見られるように、確かな美食や文化として愛でられ、暮らしに息づいている。
肱川と川魚
上流から下流まで肱川は市の中心を貫き、良質な水源となることで養殖業にも貢献している。河辺郷と親しまれる肱川上流域では、あまごやイワナが豊富に育つ。緩やかな流れとなる市内中心部の城下町周辺では、鮎や鰍の漁が盛んだ。川で投網漁や建網漁に勤しむ人の姿も大洲の風物詩のひとつ。趣向を凝らした旬の川魚を提供する、歴史あるお食事処が軒を並べている。
鮎 [塩焼き・釜飯・田楽・せごし・雑炊・フライ]
大洲の代表的な伝統文化として“うかい”があるように、鮎はこの地を語る上で外せない。塩焼きは、鮎の特有の清らかな味わいを堪能できる最も代表的な料理。特に、囲炉裏の炭火でじんわりと焼き上げた鮎を、熱々のうちに頬張るのは、実に贅沢だ。やや焦げ目が付いて張りのある皮、ふわふわとほぐれる白身、熱で程よく和らいだ塩の風味が絶妙。鮎漁が古くから盛んだったこともあり、釜飯や田楽、雑炊、フライにと、料理人や店舗によって様々な食べ方で愉しむことができる。それぞれの美味をご堪能あれ。
あまご [塩焼き・さつま・天ぷら]、
イワナ [寿司・天ぷら]、ニジマス [刺身]
あまご、イワナ、ニジマスは、主に上流域で育つ。上流には特に美しい水が流れ、程よく荒々しい川の流れも相まって、甘く締まった身になる。お刺身でいただくことができるのも、採れたてがその場で手に入るからこそ。大洲の郷土料理“さつま”は、アマゴの身を香ばしく焼き上げ、麦味噌で作ったさつま汁と一緒に、温かいご飯にかけて味わう。締めの一品にも、目覚めの一品にもうってつけの料理だ。
カジカ [佃煮]
川魚料理としてはあまり名が挙がらないかもしれないが、実は美味しいのがこの魚だ。「鰍」と書くことからわかるように旬は秋。また、春から初夏の時期には卵を抱え、この頃もまた美味である。カジカは一説には鹿肉のように濃厚で芳醇な味わいがすることから、河鹿と書く地域もあるそう。かつて大洲では、炭火で焼いたものを藁で編まれた“ほて”に刺して乾燥させたものを、保存食としても重宝していた。市場にはなかなか出回らず、知る人ぞ知る、隠れた美食である。
川魚のいくら丼
一風変わった川魚のいくら丼。鮭のいくらより小ぶりで明るく透き通り、黄味がかった色をしている。アマゴ、ニジマス、イワナの卵を使っており、ここでしか味わうことのできない冬の味覚だ。口の中で捉えきれないほどぷりぷりと張りのある食感で、鮭ほどの濃厚さを感じないさっぱりとした味わい。癖になってしまいそうな食感と、温かい白ごはん、醤油の旨味、見た目の真新しさもあって、愉快な一品となるだろう。
鰻 [うな重]
川魚の王道と言えばやはり鰻だろう。肱川の良質な水源を使用する養鰻場で育つ。大洲の歴史ある食事処では、代々継ぎ足された秘伝のタレが使われている。肉厚の焼身が茶褐色のタレを纏い、絶妙の焼き加減で香ばしい匂いとともに提供されるうな重は、美味しいとわかっていても唸らずにはいられない。

旅館やお食事処

うめたこ 山の宿
昔ながらの佇まいに風情を感じる、石風呂大浴場が自慢の旅館。鮎は、“友掛け”と呼ばれる技法で釣り上げる、特定の漁師さんから仕入れたもののみを使うこだわりに注目だ。
ホテルウエストリバーにし川
長きにわたり大洲産の旬の味覚と向き合ってきた熟練の技で、丁寧かつ繊細に料理される。思わず笑みがこぼれるご馳走だ。心が籠もったおもてなしも、隠し味のひとつ。
料苑たる井
肱川が育んだ鮎や鰍などの川の幸や、瀬戸内で水揚げされた海の幸など、厳選された大洲の食材に確かな技が光る。大正時代より継ぎ足されてきたタレで焼き上げた鰻も格別だ。
綿六旅館
創業140年の歴史ある料亭。鮎を使ったフルコースなど、一品一品の料理に季節の移ろいを表現しており、鰻や鮎、鰍をはじめ、旬の滋味を生かした美味との出会いがここにある。
あまごの里
河辺郷を流れる水でアマゴ、ニジマス、イワナが育てられ、刺身や川魚のいくら丼など豊富な川魚料理を堪能できる。ここにしかない美味を求めて、遠方から訪れる人も少なくない。
河辺ふるさとの宿
かつての小学校校舎が蘇った、懐かしい雰囲気が漂うお宿。河辺郷特産の“清流の女王”アマゴや、旬の山菜・野菜などをふんだんに使った郷土料理が自慢。
いわな荘
河辺郷の美しい山々に囲まれた、1日1組限定の隠れ家お宿。渓谷から引いた水で育った川魚釣り体験ができ、その魚が夕食に。古き良き里山での特別な時間を過ごすことができる。
鹿野川荘
鹿野川湖を望みながら、アマゴやイワナなど川魚を使ったお食事と温泉を愉しむことができるお宿。肱川地区をはじめ、大洲や愛媛の旬の食材をふんだんに使ったお料理が自慢。