大洲の徒然話
2021.04.23

城下町の肱南地区を巡る

城下町に満ちる豊かな時間に
心よろこぶ

旅における「豊かさ」とは何だろう。
歴史あるものや美しきものへの造詣を深めたり、
地産に舌鼓をうったりすることだろうか。
本質を辿れば、その一つひとつの文化体験をつくり出している「人との出逢い」こそが、
旅を最も豊かにしてくれるのだと気づく。
大洲城下に残る古民家には、先人が丁寧に住み継いできた暮らしの面影と、
新しき人々の営みが共存している。
それぞれの想いを感じて穏やかに過ごせば、心豊かな旅の時間が訪れるだろう。

肱南地区は、肱川が大きく湾曲した中流域あたりに広がる旧城下町を指す。戦災を免れたことから、加藤氏六万石の時代より築き上げてきた大洲城や臥龍山荘のほか、城下町特有の町割と武家屋敷、町屋などの文化的遺構が多く残る。また、明治から昭和初期にかけては、木蝋や製糸・舟運に沸き、各所に往時の面影をとどめている。現在は、行政機関などが集まる大洲の中核地区でありながら、旧来の趣ある街並みを残す地区として多くの人が訪れている。
時の経過が醸成する酒を嗜む[酒乃さわだ 小倉邸]
閑静な町筋に“小倉”と看板を掲げた古民家がある。金物屋や民芸品店を経て、2020年2月に開店した「酒乃さわだ 小倉邸」だ。“故くて新しい”を掲げて誕生したこの店では、150年ほど前まで日常的であった酒の量り売りが愉しめる。モダンな店内で専用のボトルに注がれるのは、量り売りでこそ生きる選りすぐりのワインや地酒の数々。夫々の造り手の物語に耳を傾けながら、今宵嗜むワインを思案するひとときは、大人だけに許された贅沢な時間だ。
ni
酒乃さわだ 小倉邸
酒乃さわだ 小倉邸
酒乃さわだ 小倉邸
真摯に酒と向き合う店
生まれも育ちも肱南の店主・澤田典康さんがこだわるのは「酒との対話」。店頭に並ぶ酒の一つひとつと向き合ってこそ、香りや味わいの先にある奥深さを知ることができるという。
「お客様に向けた私の言葉は、お酒から語られた言葉でもあるのです」。店主から語られる言葉の端々に、その真摯な姿勢が感じられる。古き良き時代の酒屋の人情味を継承ながら、故郷肱南に新たな賑わいを生み出した「酒乃さわだ」で、旨酒を飲み比べてみては如何。
庭園のある古民家で寛ぎ、往時に思いを馳せる[商舗・廊 村上邸]
江戸末期、約170年前に建てられた村上邸。往時には木蝋の加工製造で大洲の経済界を牽引した村上一族の邸宅のひとつで、現在は「商舗・廊 村上邸」として開放されている。「商舗」では、大洲ゆかりの色である藍・淡・墨の逸品を販売、「廊」では、店主の琴線に触れた作家による展示会が催される。カフェでは、四季折々の顔を見せる日本庭園を愛でながら縁側でコーヒーや甘味をいただくことができる。穏やかな時間に体の隅々まで癒される空間。
商舗・廊 村上邸
商舗・廊 村上邸
商舗・廊 村上邸
時を経て感性が磨かれる拠点へ
おはなはん通りの傍で170年もの長きにわたり、多くの人の行き交いを見つめてきた村上邸。縁あってこの地に移住した現店主の手に受け継がれてからは、歴史深い空間に現代的な感性の人やモノが集う稀有な場所として、往時の賑わいとはまた違った存在感を放っている。月光が照らす廊に繊細な手仕事が飾られる日があれば、客間でギターの音色が響く日もある…明日も古邸には心地良い時間が流れる。
深化する地産の土産物たちに出逢う[しずくや]
大洲という土地に魅せられて、多くの人やものが集まる。清流肱川の力だろうか、それとも風情ある町並みを残す城下町がそうさせるのだろうか。かねてより人々を惹きつけてきた肱南の地は、西日本豪雨の苦難を乗り越えて、より一層力を増しているように思える。
しずくや


しずくや
色褪せない道具たち
「しずくや」の屋号の由来は、“大洲の清流、肱川も1滴のしずくから生まれたように、新しき道具が生まれるのも古き道具の変化から”。おはなはん通りの突き当りに佇む店舗には、愛媛県内の優れた工芸品などが並ぶ。美しいフォルムの砥部焼や、大洲産のブランド木材「媛ひのき」を使った繊細なカトラリーといった、暮らしの伴侶となる逸品が集まっている。
古民家を慎ましやかに飾るドライフラワー[花の日々]
独学でドライフラワーを学んだ店主が「花の日々(ハナノヒト)」開業の場所として選んだのは、趣ある古民家の土間。大洲の地には、幼い頃から所縁があったという。
花の日々
花の日々
古民家を慎ましやかに飾る
ドライフラワー
店には、ドライフラワーの数々と雑貨・焼菓子などが並び、やさしい時間が流れる。ここは、心を豊かにするモノたちに囲まれた幸せな場所。
居を愉しむ宿のカフェで、心休まるひとときを[はたご屋霧中]
文化体験の最たるものは、その地で暮らすことである。「はたごや霧中」は、築140年の古民家ゲストハウスで、その前身は町の文具店として地元の人たちの暮らしを支えてきた歴史がある。歴史ある街並みのなかで暮らすように泊まることのできるこの宿は、来訪者により深くこの地を知って欲しいとの、宿主の思いが詰まったもてなしに溢れている。
はたご屋霧中
はたご屋霧中
他愛もない話に時を忘れて
ゲストハウス内のカフェ&バーでは、地産の食材を使ったランチやスイーツが味わえる。地元愛に溢れた店主は、“大洲のうかい”の船頭でもあり、気さくな彼らとの距離感に、心地良く時が過ぎる。まち歩きに疲れたら、しばし足を止め「はだごや 霧中」で大洲談義に花を咲かせるのも一興。

各店舗のご案内

酒乃さわだ 小倉邸
酒乃さわだ 小倉邸
古民家にてワインや愛媛の地酒の“量り売り”を行う稀有な酒店だ。大洲市内の五郎には本店を構えている。
商舗・廊 村上邸
商舗・廊 村上邸
愛媛県内の作家を中心とした土産ものと、愛媛や大洲特産のメニューがあるカフェが愉しめる。定期的に展示会なども開催している。
しずくや
しずくや
愛媛県内の優れた工芸品や雑貨、選りすぐりの食品など、所狭しと並ぶ良質な土産ものを取り扱う道具店。
花の日々
花の日々
ゲストハウス「はだごや 霧中」に隣接しており、ドライフラワーや手作り雑貨、焼き菓子などに思わず心が躍る。
はたご屋霧中
はたご屋霧中
古民家ゲストハウス兼カフェ&バー。大洲や愛媛県産の食材を使ったランチや、季節の果物を使ったスイーツがおすすめ。