四国・愛媛県にある小さな城下町。
大洲市では人口減少に伴い空き家が増加し
歴史的な町並みを維持するのが
困難な状況に陥っていた。
大洲の地域文化を残し
町のアイデンティティを守るため。
歴史的建造物の再生と活用を中心とした
大洲の観光まちづくりは
まちに対する危機感から始まった。
大洲市はかつて木蝋や和紙、養蚕業などによって栄えた城下町である。
肱南地区と呼ばれる大洲の城下町には江戸から昭和にかけての古民家が多く並び、当時の面影を残す町並みは”おはなはん”や”東京ラブストーリー”など、様々なドラマや映画でロケ地としても使われた。
木造で完全復元された大洲城や大洲随一の景勝地に建つ臥龍山荘など、城下町の繁栄を感じることができる場所が今でも多く残っている。
しかし近年、風光明媚な城下町の町並みが一気に消失する危機に瀕していた。
大洲の城下町では過疎化や少子高齢化、更には空き家の増加が深刻な問題となり、多くの所有者が民家を更地にして駐車場にするなど、城下町の景観が失われる寸前だった。
そこで大洲市では「歴史的資源を活用した観光まちづくり」という手法を用いて解決しようと試みた。
行政・金融機関・民間事業者が連携することで、歴史的建造物の保全や観光客の呼び込み、城下町の活性化を図った。
城下町では、持ち主がいなくなった空き家が軒を連ね、すでに維持できなくなっているものも少なくなかった。
そこで産官金連携の事業と並行して、城下町の喪失に危機感をもった地域の若者たちが「YATSUGI」というNPO法人を立ち上げ、市外に住む物件所有者の代わりに空き家の清掃や障子の張替えなどの簡単な修繕活動を行い、所有者の不安を取り除くとともに空き家の損傷の進行を遅らせた。
「YATSUGI」の延長線上の試みとして、「城下のMACHIBITO(しろしたのマチビト)」というイベントも開催した。
マチビトとは、まちとひとのこと。
かつての城下町には多くのマチビトがいて、町家を使って商売をしていた。
城下町を再生するには町家を活用したマチビトが活躍する場が必要不可欠であり、それをイベントとして試験的に再現した。
このイベントでは”100年前の大洲の賑わいを再現する”というコンセプトで、ドレスコードも着物や和装のようなレトロな装いに設定し、城下町はまるで当時のようによみがえった。。
イベントを通して地域住民や事業者、市外・県外の方にも大洲の町家の魅力を実感していただき、更には大洲に出店したいという事業者も現れるほど、大洲にとっては大きなターニングポイントとなった。
産官金を巻き込んだ事業やYATSUGIの取り組み、城下のMACHIBITOを通して少しずつ大洲の町に活気が戻ってきた。
城下町エリアでは6年間で31棟の歴史的建造物の改修を行い、地域の物産品を取り扱うショップや古民家の上質な雰囲気を活かしたカフェ、クラフト製品を扱うショップなど、様々な形で古民家が活用されている。
2020年には空き家をホテルの客室として改装した日本最大級の分散型ホテル「NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町」が開業した。
城下町全体をホテルとみなし、滞在を通じて町を回遊することで大洲の歴史や文化、くらしに触れることができる新しい旅の形をデザインしている。
また、かつての城下町の町家は一階が商店、二回が住居として使われていたように、「NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町」でも一階を古民家ショップ、二階をホテルの客室として利用している建物が多くある。
歴史的資源を活用した観光まちづくりの一環として、文化財を未来へ残す取り組みもはじまった。
その最たる例は、木造で完全復元された大洲城に宿泊できる「大洲城キャッスルステイ」だ。
この日本初の体験は、法螺貝の音とともに始まる。
当時のお殿様の入城シーンの再現や、家臣による城主証の授与、鉄砲隊による歓迎の祝砲、伝統芸能の披露など、様々な大洲の歴史を追体験できる。
夕食は現存の櫓である高欄櫓で、朝食は国の重要文化財である臥龍山荘で地元の厳選した食材を織り交ぜた殿様の献立を提供。
キャッスルステイに関わる取り組みは大洲城の価値向上だけでなく、地域全体の知名度向上や地域文化の保存に寄与している。
いまや、大洲の歴史的資源を活用した観光まちづくりの取り組みは世界的に評価されている。
2023年には持続可能な観光地の取り組みを表彰するグリーン・ディスティネーションズ・ストーリー・アワーズ(Green Destinations Story Awards)「文化・伝統保全」部門にて世界1位を獲得。
2024年にはグリーン・ディスティネーションズ(GREEN DESTINATIONS)「世界の持続可能な観光地アワード」でシルバーアワード受賞を受賞した。
先人が受け継いだものを受け取り、次の世代に引き継ぐ。
住人や事業者、行政、さらには大洲に来訪する観光客までもを巻き込み、文化を紡いでいくことで、大洲の観光まちづくりは成り立っている。
大洲ではこのような大洲の物語を”紡ぎびと”と呼ばれる案内人とともに体験できる「OZU STORIES」という体験を提供している。
大洲の歴史やまちづくり、古民家再生の物語などを、大洲を熟知した”紡ぎびと”とともに巡る。
城下町の案内だけではなく、地域の方との交流を通して大洲の理解を深め、まちづくりの当事者として観光を愉しむことができる。
また、「OZU STORIES」は収益の5%を町の保全を行う団体に寄付しており、この旅に参加すること自体が、大洲を文化を紡ぐ活動になっている。